一歳

雨戸の隙間から漏れる光が今日も朝が来た事を知らせる。

光の具合からするといつも起きる時間はとっくに過ぎている

ころだ。

いつもの週末の朝。けれどこの隙間から漏れるかすかな日差し

しかない薄暗がりの寝室が今日はひときわ懐かしい。

ユニオの誕生から丁度一年。

あの子が生まれたこの寝室,このベッドのうえで

今日もあの日のように朝を迎えた。

しばし余韻に浸るように思い出の糸をたぐるように

差し込むわずかな光を眺めるともなく眺める。

いつもの朝が何回も巡ってやってきた,特別な朝。

まだ家中が静かな中、ユニオと主人と私と三人だけの蚊帳のなかで

今はずっしりと重たい頭にむっちりと元気な四肢が育った

あかちゃんを抱きしめる。

なんとなくそんな気配に気がついたのが「んっんっ」と寝返りをうって

おっぱいを探る赤ちゃんにおっぱいをあげながら

まだまだ赤ちゃんの匂いのする我が子の頭の匂いをかぐ。

真っ赤で暖かく私の胸の上で丸まるように乗っかっていた

あの小さな赤ちゃんは今ではすっかり大きくなり、ただ

にぎりしめるばかりだった小さな手はふくふくと育ち

今では何かを掴もうと好奇心を全開にしている。

一歳。

当たり前の、いつもの毎日を繰り返して、いつもと

変わらない部屋でいつもと変わらない人たちといつものように

迎えるその日は毎年いつになっても時空を超えて特別な場所へ

私達を連れて行ってくれる。

毎日何を食べて,どんな物を見て、何を思って、何を感じて

どんなふうに過ぎていったの?

繰り返す日々の中でこの一年の節目に見せる子供の姿が,

その全てを物語ってくれるかのように感じる。

「あぁおおきくなったね。」

私のおっぱいで、家族の中で,色んな音の中で

色んな人たちの中で、色んな国の狭間で、色んな味と色と風の

中で、全ての物を栄養にして全ての物を吸収してあかちゃんは

大きくなった。

こういう風にして私もまたお母さんとして一年たった。

そしてユニオの一歳の誕生は私達の新しい家族の一歳の

お祝いでもあった。

 

特別な朝を味わいながらもいつものように一日が始まる。

朝ご飯を食べ、洗濯をし、ふざける子供をたしなめ,

外でははしゃぐ声が聞こえ赤ちゃんは私のまわりを

這いずり回る。

そんななかでも「マッマッ?」「ダイダイ〜」と

言葉にならない言葉を話し始めている赤ちゃんの声を

きくたびに「あんなに小さかったのに」とその日は一日中

暮らしの風景の端々で1歳になる息子の成長の足跡を

辿るように過ごした。

けれど特別な気持ちは抱きつつも特別な事をする予定はなかった

1歳の誕生日。

唯一ユニオが初めて食べるケーキは我が家の定番

寒天ゼリーケーキのフルーツポンチに決定していたのだった。

一日遅れて家族全員が揃い、待ちにまったケーキを食べることになり

外で遊んでいた双子を家に戻るようにと呼びにでると

この素敵な天気の昼下がりに誘われるように

同じコンドミニウに住むご近所さんたちが庭に集まっていて

思いがけずみんなでユニオの誕生を祝ってもらうことになった。

近所の仲良しも集まって子供たちは大喜び。男の子の多いこの

コンドミニウの悪ガキチームにユニオが仲間入りする日も

そう遠くないのかと思うと嬉しいような恐ろしいような

複雑な気分がした。

大人達は飛び入りで楽器を持ち寄りギターやタンバリンを片手に

ブラジルの誕生日ソングを歌いだす。私はこういうブラジル人の

陽気でフレンドリーな所が大好きだ。

手拍子に歌声に笑い声に、かけ声に包まれて、沢山の子供たちと

大人とキラキラの太陽に見守られた1歳の誕生日。

いつもの休日が特別な休日に変わる瞬間。

ひとしきり歌い終わっていよいよバースデーケーキを

分かち合う。

ブラジル流のチョコレートケーキではなく、見た事も無い

ゼリーのケーキにブラジルの子供たちはしばし呆然としつつ、

誇らしげに「これうまいよ!」と自慢げに話す双子達。

密かにみんなとわけたくないくらいゼリーケーキが大好物

な長女にブラジルでは貴重な白玉をゼリーケーキよりも

楽しみにしている次女。ブラジルの子供とは対照的に

我が家の子供達は食い入るようにケーキに熱い視線を

送ってる。

白玉を見た事がない子は白玉を指差して

「そのゆで卵も食べた〜い」と言ってるし「もちって何?」と

初めて食べる白玉に興味津々のブラジルお母さん達。

ブラジルではほぼ見かける事の出来ない砂糖を使わない

デザートという事でも話は盛り上がる。こんなふうに

よその国の味、知らない料理で世界がつながるのも外国に

いて楽しいことの一つだ。

けれどそんな中自分が主役だと気がつきもせず、

わんさと集まった人の輪のまん中で物珍しそうに

ポンチの中のゼリーやイチゴをほおばるユニオ。

気がつけば私達は誰も知らない何も知らないブラジルで

こんなたくさんの人からの祝福を受ける誕生日を

迎えていた。

赤ちゃんが運んできてくれる幸せのひとつはこうした

新しい人とのつながり、世界との出会い。

この無邪気な存在がこれからも沢山の世界に出会うように

私達も彼らと共に歩みながら出会う世界を楽しみに

している。

4 コメント

  1. ともよ

    一歳おめでとうございます。
    お兄が笑っている表情、お姉ちゃんのすっとした立ち姿もいいですね。

    わたしも来月一歳になるむすこがいます。
    妊娠中、マタニティブルーになりかけた時、ひとみさんの出産ブログを見て勇気づけられたことを、ふと思い出しました。

    これからも楽しみにしてます✨

  2. クリスタル

    ユニオくん、一歳のお誕生日おめでとうございます!
    日登美さんの紡ぎ出す言葉一つ一つがスーッと心に入って来ます。

    これからもブログ楽しみにしてます。

  3. 日登美

    コメントありがとうございます。
    ブログ,お役にたてているようでとても嬉しいです。
    これからもどうぞよろしくおねがいします=)

  4. Michelle

    すてきなゼリー!ケーキよりもおいしそうです。白いものは白玉でしょうか?よろしければレシピをのせてくださいませ!ひとみさんのレシピ本からごぼうの料理をつくりました。いまはNYからLAにひっこしたので、日本ヤサイをてにいれやすくなりました。もっともっとひとみさんのようにお料理がんばります。