雨の思いで

最近は雨続きだったブラジル。まるで梅雨の日本のよう。

しとしとと雲をたれ込めている空だったり

ざけんなよ、っと言わんばかりの大雨でそこいら中に

川を生み出すほどの大雨だったり。

ともかく、雨、雨、雨。

重い低気圧の雰囲気に包まれて眠気に襲われる日々の

なかでもほっと布団にはいる瞬間に聞こえる

撫でるような雨音には幾分癒される。

癒されて緩んだ心の隙間でふとよみがえる

とある雨の日の出来事。

 

もう去年のことだけど、それは真夏の出来事で

やっぱり雨の降る午後だった。

そんな天気だったけど,その日は郵便局に届いた荷物をとりに出かけた。

私のうんと若くまだ髪の毛がショートカットだった時を知っている

カメラマンの友人が雑誌のブラジル特集でエッセイを

書いていると聞き読みたい!と言ったらなんと送って下さったのだった。

人生にはこういう心がすかっとするほど嬉しい

親切をしてくれる人と言うのが時々いるのだ。

 

ともあれ、

私は彼の文章がとても好きだったから彼の視線で描かれるブラジルとは

どんな風景なのだろう。とわくわくしていた。

そして世界中が注目していたワールドカップ開催地ブラジルには

私の知ってる近所のこの町以外にもどれほどの顔と風景があるのだろう。

そんな期待を一心に込めた一冊が海を越えてやってきた。

その日が雨だった。

郵便局の中には長蛇の列。生温い風を

かき回す扇風機がなんとも空しく懸命に首を振っている。

簡単に言えばなんかいや〜な雰囲気だ。めんどくせぇ…的な

雰囲気だ。

だけど子供を連れていくとそんな面倒をすっとばして長蛇の列を

割り込みできちゃうのがブラジル。どうぞどうぞと言って優先してくれるのが

ブラジルのいいところだ。おんな、こどもにやさしいのだ。

もちろん日本の電車の優先席みたいに、「年寄りと、妊婦と〜は優先

しますよ」って書いてあるんだけど、日本では優先席でも

赤ちゃんがいたって眠ったふりする人もいるし

ほとんど「あなたあそこ座ったら?」なんて声もかけて

くれない名ばかりの優先が結構当たり前だけど

ブラジルは名ばかりの優先ではない。誰もが子連れをみると

自分から声をかけて「さ、どうぞ、あなた子連れじゃないですか」的な

ことを言ってくれる。こっちが気がつかなくても誰かが自分の順番が

遅くなっても親切に順番を譲ってくれる。

あぁ素晴らしきブラジルの道徳心。

嬉しい親切は日本を渡ってやってきただけでなく

この一見憂鬱に見える雨のブラジルの郵便局でも

バトンがつながれていた。

 

そんな人の優しさに心みたされたとある夏の午後。

そのあと雨がやんだので銀行にいったら、出る時には

また雨が降っていた。

しまった。

車を泊めた場所まではちょっと距離がある。

でもまたいつやむかわからないからぬれるのを覚悟で

赤ちゃんを抱いて急ぎ足で歩いた。

すると。

「ちょっと、おねえさん」と呼び止めるおばちゃんが。

「あんた、この傘つかってちょうだい。赤ちゃんがいるじゃない。」

といって私の手に傘を押し付けて笑いながら雨の中を去って

言った。

私はかろうじて「ありがとう」といえたのだけど

あまりに突然で、あまりに自然な善意に呆然としてしまって

しばらくおばさんの後ろ姿を見ていた。

あのおばさんはあれからどれくらい雨の中を歩いたのだろう。

見ず知らずの私に傘を渡して笑顔で去ったブラジル人のおばさん。

傘は随分使い込まれ、ブルーに水玉模様の傘の串のいくつかは

壊れていた、日本にいたら捨てられそうな傘だけど

こんなに優しい傘に出会ったのは初めてだった。

 

雨模様のブラジル。

この一続きの優しさの輪を感じた一日を

雨を見る度ふとに思い出す。

きっと世界のどこにいてもこの心の景色は

雨と一緒にまたいつか思い出されるんだろう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

おかげさまでご好評頂いております幻冬舎plusの連載

「日登美のブラジル食便り」

第6回アップされました〜

今回はバナナの揚げ物です。

どうぞご覧ください!

 

 

 

 

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